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『 休暇申請 』
050310〜050317までmemoにて連載。050406












2月某日 記録者 星野基。
行動予定。本日、ひよこ隊5名H湖にて公魚釣り。帰宅は当日。



 ひよこ隊のメンバーで、H湖に公魚釣りに行く事になった。
 事の発端は、俺とヒロがウインタースポーツの特集をしてた雑誌を見て、今度の休暇にスキーに行かないかと話していた時の事。
 俺は毎シーズン春まで楽しんでいたし、ヒロもそれほど頻繁には行かなかったけど年一回以上は滑ってるって言うから、それなら。って。
 夜出て車中泊でもいいかな〜とか思ってたんだ。
 そうしたら。
『何?二人ともスキーに行くと?おいもー!』
 メグルが話に入り込んできたと思ったら、あれよあれよという間にスキーの腕の自慢になり、そうしたら黙っていられなかったのかタカミツまで話に入り込んできて。
「ひよこ隊で行く!スキーで誰が一番上手いか競争だ」ツアーが出来上がっていた…
 俺はヒロと二人で行きたかったから…とか思ってたんだけど、こと競争となると皆熱いからなぁ。
 そうしたら。
『俺、スキーしたことない』
 兵悟がぽつり。
『マジ?兵悟君友達おらんと?』
『嘘じゃ!いくら長崎とはいえスキー一回位は行くじゃろ?』
 みなで口々に言うから、兵悟はなんかこっちが見てるのが可哀想になるぐらいうろたえて。
 高校時代の友達とまで疎遠になっている事まで、聞かされちゃった。
 …まぁ、俺達だってそういう友達と全然疎遠にならなくなったと言えば嘘だけど。
 なんとなーく気まずい雰囲気の中、冬山には行きたい気分で。
 教えてもいいけど、なんとなくそんな事を言い出せそうな雰囲気には到底なってない。
 兵悟が『俺はいいから』って言い出させる前に。
 ばっと雑誌に目をやれば。そこには子供向けの企画とか、色々と載っている。
 いや、兵悟が子供と言う訳じゃないけど。
『じゃ、H湖で公魚でも釣る?』
『なら、H湖で公魚でも釣らん?』
『じゃ、H湖で公魚でも釣るか?』
 俺とヒロとタカミツが同時にそう声を上げる。
 「それなら…」と、少しだけ表情が明るくなった兵悟にほっと胸を撫で下ろすも、メグルだけは口角を下げて、凄く不満そうな声で、
『わかさぎぃ〜?』
 とか言う。
 あああ。
 そのとき。
『公魚か!お前ら余裕やなぁ』
 すっごいタイミングの悪さで、軍曹と真田さんが通りかかった。
『たいちょー。公魚ですって。お前ら自分らがよう泳げもせんと、のんびり釣りなんて考えよるな』
『公魚か…』
 真田さん、そう呟いて、何事か考えているみたいな目をする。
 …な、何を考えているんだろう。真田隊長は、何を考えて…
 表情のせいか、怒っているのか、それともただ考えているだけなのか検討がつかない。どうしよう…
 そんな隊長に、怖いもの知らずなのかメグルが近寄って。
『真田隊長!公魚食べますか?』
『あぁ、食べるな』
『そういや、公魚なんか食うてませんね』
『そうだな』
 そこまで聞いて俄然やる気になったのか、メグルが公魚釣りの事が載っている雑誌を持ち上げて、口元に笑みを湛えてる。
『ひよこ隊で今度の休みに公魚釣りば決定〜♪』


 ………


 まぁそんなわけで、5人でH湖に公魚釣りに行くことに。
 スキーはしようと思えばゴールデンウィークまで出来るから、ヒロとはまたその時までに。


2月某日 記録者 佐藤貴充。
休憩と運転手の交換の為、パーキングエリア着。15分の休憩後出発。


 レンタカーを借りて、朝4時半には出発。
 神林以外は運転免許証を持っているので、みなでローテーションで運転する事に決まる。
 神林、スキーも知らず、運転免許証もとっておらず、アイツは佐世保で一体何をして生活して来たのか甚だ疑問だ。年下だというのが言い訳になるとは到底思えん。
 今日はそのせいかレンタカーの一番後ろの席、一番狭い所に荷物と一緒に小さくなっている。
 けれどまだ恐縮しているだけ、許そう。
 俺が今許せんのは。
「まだ着かんと?けっこう遠かね〜」
 石井メグル。こいつだ。
『おいここね〜』
 と、運転席の後ろの一番安全な席に座り。
『おい雪道の運転の経験がなかよ』
 と、二番手に運転を替わる筈がちゃっかりと辞退し。(ちなみに一番手は星野だった。市街地を抜けるには最適の人選と見受けられる。現在は助手席にてナビを担当。よく気のまわる奴だ)
『んーなんだか眠くなって…』
 さっきまでぐうぐうと寝ていた。
 とんでもなくマイペースな男だ。
 どの隊に入るかでこいつと競る事は無いが、ひよこ隊での最終的な成績、こいつにだけは負けるものか。
「あ、タカミツ、そこの出口入るんだけど…」
 むっ!
 キキー!!キュキュキュ!
「何しとるんじゃ!タカミツ!」
「あぶなかねー!運転してるんだからもっと自分の運転に責任ば持ってくれんといかんばい!」
 石井…お前だけには言われたくない。


2月某日 記録者 石井盤。
H湖到着。道具を借りる為湖畔の釣具店に。


「…寒かー…」


2月某日 記録者 神林兵悟。
道具を借りる為湖畔の釣具店に行きました。


 車を降りた途端にメグル君は寒いと言ってまた車に戻ろうとしました。ウエアとか凄い着込んでるのに!
 確かに寒いけど、何しに来たんだってなっちゃわないかな。
 …俺がスキー出来なくて、公魚釣りになっちゃったのも申し訳ないけれど。
 でも、凄く景色が綺麗です。一人で桟橋辺りまで行ってみました。
 俺、初めて湖が完全に凍っているのを見ました。
 それと、その湖の上に、真っ白でサラサラした雪が積もってるのも。
 真っ青な空に、白い雪景色がはえるのも初めて知りました。
 スキー出来なかったのは残念かもしれないけど、これはこれでなかなか無い経験じゃないかと思ってます。
「兵悟ー道具借りるよ」
 星野君が呼んでます。メグル君もしぶしぶといった風体で車から出てきました。多分エンジン切られてヒーターが消えたからだと思うなぁ。
 背中を丸めて足早に釣具店の中に入っていきます。
 晴れていて風は無いけど、確かに寒い。
 耳が切れそうに寒くて熱くて、痛い。
 俺も店の中に行きます。
「遅かよ、兵悟君」
 店内のストーブの前に早速陣取ったメグル君が俺に向かってそう言います。
 メグル君だって、今さっき入ってきたとこじゃないか。
 店の人に説明を聞いたら、防寒に七輪とテントが貸し出してもらえるみたい。
 七輪は見た事あるけど、テントは…なんか小型のビニールハウスみたい。
「じゃおいは…」
 寒がりのメグル君はテントを借りようとしたみたいなんだけど、
「なんだ石井、これぐらいの寒さで音を上げるのか?」
 タカミツ君にからかわれてむっとして、
「要らんばい」
 やめてしまった。メグル君に突っかかったタカミツ君、なんだかちょっと不機嫌みたい。
「じゃ俺は七輪。大羽も兵悟もそうするよね?」
 寒いの嫌だからねーと、いつものように柔和な表情で言う星野君にうんうんと俺は大きく頷いた。
 寒い中じっとしている釣りだって言うから、なんか暖房器具はあったほうがいい。
「じゃ、おじさん、全員七輪一つずつね」
「おい星野勝手に決めるな!」
「そうばい!」
「でも、頼んじゃったし、用意してもらっているの今更辞めるの申し訳ないだろう?」
 星野君は大人だ。
 むきになっていた二人を上手く纏めてしまった。
 やっぱり凄いなぁ星野君は。
 釣りざお一式と餌、椅子、七輪、そして、氷に穴をあけるドリルを借りて、漁業券を買って一人5700円。
 釣れるといいなぁ。


2月某日 記録者 大羽廣隆。
H湖湖上にて、教えられた公魚ポイントへ移動。


 釣具店の店主に、今の時間帯の公魚の予想ポイントを教えてもらい移動。回遊魚でもある公魚の群れが交差するいいポイントはここから南西に1キロ弱の距離だという。
 一緒に貸してくれたそりに荷物を乗せ移動。
 新雪を踏みしめると、足の下でキュッキュッと音を立てて耳に心地よい。
「わわっ!」
 後ろのほうで兵悟の声がする。その後しばらくして、ドシャとバフッの入り混じった音がした。
 あれやこけたな。
 振りむかんでも分かる。それから、誰が何を言うかも予想がつく。
「兵悟、大丈夫?」
「はは〜兵悟君どんくさかね〜鈍かね〜泳ぐ以外の運動神経切れとると?」
 その場に立ち止まり肩越しに振り向けば、星野に手を貸してもらって、兵悟が立ち上がって体についた雪を払っている。
 メグルは腰に手を当てたまま、手を貸そうともしないけど、きちんと待っている分、それなりに気を使ってはいるんだろう。
 …多分。
「ホント鈍くさかね」
 …多分きっと。

 岸から離れれば離れるほど、氷上の雪は深くなる。
 山から吹き降ろす風で吹き溜まりのようになっているのだろう。
「大羽、雪の妖精の作り方、知ってる?」
「は?雪の妖精ぃ?」
 三隊希望三人で後ろに固まっているのかと思えば、いつの間にか隣で肩を並べていた星野がそんな事を言う。
 後ろでぎゃあぎゃあ騒いでいた筈のメグルと兵悟もいつの間にかやや後ろに並んで歩いていた。
「なんばい?雪の妖精て」
「雪の上に横になって、雪を掻き分けるように手足を動かすと、跡がつくだろ?そういう遊び子供の頃しなかった?」
「せん」
「せんよ」
「したことない…」
「そうか。俺も子供の頃スキー場の人に教えてもらってやったぐらいだもんなぁ」
 なんかこの雪見たら思い出したよ。星野がそう言って、少し照れ臭そうに笑った。
 何だ、やりたいのか?意外と星野も子供っぽい所あるな。
 照れ臭そうに笑う星野に向かって笑みで返すと。
「それってこんな〜?」
「違う兵悟君こうばい!」
 ドサ、バサバサバサバサ〜。の音がして振り向くと。
 メグルと兵悟が新雪の上で星野の説明通りの動きを。
 …こいつら、子供だ。
「そうそう!上手いじゃん二人とも」
 んな、笑い事じゃなかろうが。もう20も過ぎた男が、そんな子供じみた真似。
「星野君も大羽君もやってみない?面白いよ〜」
「俺は冷たいからやめとこうかな、大羽は?」
 うっ。
 やる訳…


2月某日 記録者 星野基。
H湖湖上、公魚ポイント到着。


 教えてもらった公魚ポイントに到着しました。
 おおまかなので、多分この辺りで大丈夫だと思うけれど。
『お前等何してたんだ!』
 雪遊びして遅くなったら、タカミツに文句を言われちゃったよ。
 別に訓練じゃないんだからいいじゃない。
 雪の妖精を作るヒロと兵悟とメグルが、自分こそいい形でつくると息巻いている姿は、可愛かったなぁ。
 童心を忘れないっていうのもいいと思うけど。
 それにしても髪に舞い上がったパウダースノーがキラキラ反射する姿は、笑顔とあいまって、綺麗だったな。
「そう言えば、釣る場所どうやって決めるの?」
 とりあえず到着して、兵悟が何気なくそう言う。
 それを聞いてみんな、『あ』って顔をした。
 おおまかなポイントは教えてもらったけど、その中で何処を決めるかなんて、適当でいいと俺は思ってたんだけど。
「勝負ばい。勝った順から自分の好きなポイント決めると!」
 え?こんなに広いのに?
「何で勝負するんじゃ」
「じゃんけんでもするのか?」
「こればい!」
 メグルはそう言って、そりに乗せてあった氷に穴をあけるドリルを指差した。
 グループで行動だから、一つだけ借りたんだけど。
「これで一番早く穴ば開けた人が勝ちばい!」
「よし乗った!」
「ワシが一番じゃけぇ!」
「お、俺だって!」
 ええ!?何でそう勝負事が好きなんだよお前等!
「星野!時間計れ!」
「…再トライは無しだからね!」
「えー!星野君仕切り屋〜」
 再トライなんかさせたら何時になっても釣り始まらないだろう。




2月某日 記録者 星野基。
H湖湖上、公魚ポイント到着。各自場所決定。


 とりあえず、順位決定。
 連続記録が俺なのは、皆全力投入しすぎて疲れて雪の上に転がっているから。
 何でこうなんだろう。
「よっしゃー…おい、が一番!ここにするばい…」
 メグルはズリズリと這いながら移動して、ポイントを決めのろのろと立ち上がりセッティングをはじめる。
 あーきつかー。と言いながらも、一番先に復帰する辺り。
「クソ…」
 地を這うように呪詛めいた口調で呻くのは二番手のタカミツ。
 筋力には自信ありだろうけど、これってばまっすぐに削れるかのバランス力と手動のドリルを動かすタイミングだからね。あと氷の厚さかな?力任せでできるってものじゃないみたい。
 勢い込みすぎて氷を突き抜けた後もんどりうって転んだのが相当痛いみたいだ。
 寒いと痛み倍増だから。
 声もなく転がってる兵悟と大羽が同タイムで四位。
 それでも何とか復帰した兵悟が、起き上がって、
「星野君、疲れないの?」
「そりゃ疲れたよ。本気で削ったし」
「でもなんで座り込まないの?」
「座ったり転がったりしたら、立てなくなるかもだから」
 勝負事についムキになるのは、俺も一緒だったなぁ…
 言った通り、疲労が腕の筋肉で乳酸を出してるよ既に。
 釣る前にこんな状態で、ホント大丈夫なんだろうか?今更になって残りの時間が不安。

 順番どおりポイントを決めて、各自自分の好きな場所に穴を掘り始める。
 適度にはなれた場所で、声をかけるには少し大きい声を出さないとならない。
 めんどくさがりのメグルが、気合をいれて穴を開けているのが意外と言えば意外。
 そう言えば公魚釣りの決定をしたのメグルだったよなぁ。
 そのとき真田さんに食べるかどうか聞いてたから、もしかしたらお土産とか考えているのかもしれない。
 俺はもう一度穴を開けるのも面倒で、自分がはじめに開けた穴の前に椅子を置く。
「モト、隣いいか?」
「いいけど。穴、開けないんだ」
「もう面倒なんじゃ」
 そう言って、隣に椅子を置いて七輪をセットする。
 ほかに開いている穴はあと三つもあるのに。
「ふふ」
「何笑っとるんじゃ?」
「七輪が二個になって温かいなぁって思って」
「嘘つけ」
 小さな釣竿を用意しながらこっちを向かないヒロ。
 でもその嘘つけ、の声が少しだけ柔らかいのは、顔を見なくても分かる。
「分かってるならそれでいいよ」
「いいって、そがぁ分かったふりしよって…」
「え?愛してるって言ってもいいの?」
「馬鹿!」
 振り向いた顔は真っ赤。
 あぁ、なんか楽しくなってきた。
 なのに。
「今度は釣り勝負ばーい!!」
 湖上に轟き渡るようなメグルの声。
 折角いい雰囲気なのに、ヒロの闘争本能に火をつけるなよメグル。




2月某日 記録者 大羽廣隆。
H湖湖上、各自公魚釣り開始。


 順番で記録する予定が位置にもついたけぇ、移動するのも面倒だし、しばらくはワシと星野とで記録する。
「交換日記みたいだね」
「そがぁな馬鹿な事言うな!」
「どうでもいいけど報告用だよ」
「わかっとる!」
 あははと笑って、星野は自分の手元に向き直った。
 針の先にこまい釣り餌をつけて、穴から糸を垂らす。
 釣りがしやすいよう親指と人差し指だけが先が無い手袋をつけて作業してるけれど、氷上じゃけぇ、どうしても指が悴む。
 七輪に翳しつつ作業をしていると。
「カイロ使う?」
「持って来たんか?」
「うん」
「そういう所用意周到じゃの」
「誉めてる?けなしてる?」
「誉めとるんじゃ」
 ポケットから取り出した暖かいカイロを借りて指先を温める。
「サンキュ」
「あ、いい使ってて平気」
「どうして?」
「もう一個あるから」
 星野はもう片方のポケットからカイロを取り出してワシの目の前で振った。
「なら遠慮なく」
「うん」
 指先が温まって仕掛けを終え、星野より遅れつつも、穴に糸を垂らす。
 ん?
「あぁ、凍ったみたい。ほら氷掬い」
 気付いた星野が、お玉の部分が網になった氷を救う道具を手渡す。
「けっこうすぐ凍るもんなんじゃのぉ」
 氷を救って、糸を垂らす。
 そして、釣り竿を上下に揺らした。

 ポイントに移動する前に、釣具店の店主に糸を弛ませないようにする事、誘うように仕掛けを上下に揺らしつづける事と、あたりが微かなので注意する事を言われたけれど。
 30分、この状態。
 ま、そのうちに仕掛けを上げてエサを見たりもしたけれど。
 変わらない、釣り竿さばき。
 そろそろ飽きてきたな。
 そう思って、星野にでも話し掛けようとしたとき。
 ふと、気付いた、視線。
 笑む、眼差し。
「…モト」
「ん?」
「われ、手元見んでどうする」
「見なくても指先でもあたり分かるし」
「…ずっとか?」
「ずっとではないけど。真剣な顔、訓練の時は見てる余裕なんて無いしな」
 頬に注がれた視線。
 それじゃ振り向く事が出来なかろうが。
「あ、あたり来た」
「ホンマか!?」
「ホントホント!」
 吃驚しながらリールを巻き、星野が立ち上がってテグスを上に持ち上げる。
 数個仕掛けた針の先の一つに、10センチオーバーの公魚が、きらりと日の光を反射させながら身を翻した。
「わ!お腹パンパン!雌かな?」
「雌じゃ…」
 小さい公魚を針から外して、雪の上に置く。
「釣れたよ〜!俺一番!?」
「何ぃ!?」
「ホント?星野君!?」
「…!」
 星野の声に、バラバラに散った3人もこちらに向かってくる。
「ね?釣れるだろ?」
 言った通りだよ、と笑う星野に口惜しさよりも照れが強くなる。
 こういう所、ワシはホンマに星野にかなわん。
 だから。
「…釣りでは負けん!」
「ははは!俺も負けないよ〜」




2月某日 記録者 星野基。
H湖湖上、公魚釣り続行中。


「回遊魚だから、多分皆の所にも回遊してきてないかな?釣り戻ったほうがいいんじゃない?」
 釣り上げた一匹目を見て口惜しそうな顔をする皆をさっさと追い払う。
 ごめんだって、俺の所連続してあたりがきても対応できなかったら口惜しいし。
 折角二人で並んで釣ってるの邪魔されたくない。
 それと、気になるんだ。
 だってヒロ、皆がわあわあ言ってる中ふいって一人で釣りに戻っちゃって。
 釣れなかったのが口惜しいのかな。
 それとも別な意味での行動?
 とりあえずまた椅子に座りなおして、針に餌をかけて穴に入れる。
 入れればあとは、上下に揺らすだけだから。
 揺らしながら、今度はそっと盗み見た。
 真剣な眼差し。
 あぁ、ホントに釣りたいんだな。表情で分かるよ。
 さっきだって、真剣ではあったのだけれど、今度は無駄な事を殺ぎ落とした頬の線が、勝負事に向けられて鋭く硬い。
 うん、気持ちは分からないでも無い。でも、さっきの甘さはなくなったなぁ。
 気づかれないようほんの少しだけ肩を落として、自分の釣りに戻る。
 上下に揺らしてもピクリとも感じないあたり。
 さっきの一匹から何も進展しない。気まぐれに回遊していたお腹をすかせた一匹が、まぐれでかかったに過ぎないのかな。
 釣りは殆どって言っていいほど初心者。しかも公魚釣りは初めてで。
 それこそ、この一匹ってばビギナーズラック?
 そう思いながら雪の上に横たわり、冷えて固く棒のようになってしまった公魚を見る。
 あぁ、釣れないな。
 時間がありすぎて、なんか変に考え出しそう…
 色々。特に何かに秀でてもいない自分の事をつい鑑みてしまいそうだ。
「おいモト」
「え!?何?」
「何って、引いてるぞ」
「わわ、ホントだ!」
 釣り竿の先がグイグイと強く引かれている。
 慌ててリールを巻くと、さっきのよりやや小ぶりの公魚が一匹、深く飲み込んだのか、のどにしっかりと針を刺してかかっている。
「ホンマだ!って…何考えとったんじゃ…」
 苦笑いしたヒロの顔は、釣果を見つつ緩む。
 そして、そのまま手を拳に握ると、額にこつり、と当てた。
「何でそがぁに情けん顔をしとるんだ?」
「え?情けない顔、してる?」
「しとったしとった」
「うーん」
「何?」
 口に出すのは情けない、自分との問答だったんだけど、顔には出てたか。失敗。
「釣りって、自己との戦いだよね…」
「…話逸らしたな?」
「それに似たようなものだと思ってて」
「言わんでもええが、水臭いのお」
「そんなんじゃないってば」
 あれ?
「ヒロ、もしかして引いてない?」
「嘘つくな」
「嘘じゃないって!引いてるホントに!」
「おおっ!」
 さっきの俺の引きより強いし、変に不規則な竿先の揺れにヒロがリールを巻く。
「ダブルじゃ…」
 テグスの先にかけた数個の仕掛けの先。そのうちの二つに公魚がかかっている。
「うわー。店のおじさんが言った通りだね…」
 『うまくいけば一回で数匹釣れる事も、そうそう珍しい事じゃないよ』
 釣具店の店主がそう言った言葉を思い出す。
「数も並んじゃし。これからじゃのお」
 さっきの表情とはまた違う、晴れ晴れとした笑みが向けられる。
 手放しで喜びつつ釣果を雪の上に載せる、傍目には幼い表情だけれど、心許した笑顔。
 うん。説明はし難いけど、ヒロと居れて良かった。
 だってこんなにも、心の靄を晴らす。

 なのに。

「オイ一回で三匹ゲットー!」
 メグル…計ったようにタイミングが悪いのは何で?


2月某日 記録者 大羽廣隆。
H湖湖上、各自公魚釣り中。


「全く釣れん…」
「ホントに…」
 さっき来ていたあたりは何処へやら。
 ワシと星野とメグルが釣って、それっきり。
 二時間。
 皆はどうしているかと思って振り向くと、兵悟はがっくり肩を落とし、メグルは飽きてしまったのか片手間にしている雰囲気は背中を見るだけで分かる。
 二人とも、考えがまるわかりじゃ。腹に一物なんか持てんのじゃなかろうか?
 反対に首をめぐらせれば、タカミツは背中に不穏な空気を纏っている。
 あー…限界達するとすぐに爆発するタカミツじゃけぇ、いつ臨界が来るんだか。
「タカミツ、大丈夫かな?」
「そうじゃのぉ…」
 ワシと星野は並んどるからぽつりぽつりと会話してどうにか暇は潰れとる(ま殆ど星野がいなげな事ゆうとるだけじゃけえ)。
「変な事じゃないよ。ヒロが居てよかったって、ヒロと居られて嬉しいって、ヒロが好きだって」
「あぁ、分かったけぇ繰り返すな!」
「説得力無いくせにそういう事いうからだよ」
「何の説得力が無いって?」
「変な事とか思ってないだろ?照れてるくせに意地っ張りなんだから。そんな意地っ張りの所も好きだけどね」
「また言う!」
 そう言えば、星野はワシが言う方言、わからん事無くのぉ。
「え?愛愛!愛だよ愛!」
「そう繰り返すほうが真実味が無いんじゃ!」
「だって体で教えたいのにヒロが拒むんじゃーん!」
「お前はやりすぎなんじゃ!」
「回数が多い?じゃ、一回一回大事に、する?」
「…ぇって」
「ゆっくりすると早くって言うのに?」
「釣りに集中させえ!」
「はいはい。ヒロは俺が好きっと」
「…言っとらんじゃろうが」
「そう聞こえたからいいんだよ」
 …ったく!
「それよりタカミツが…」
「俺と居るとき他の奴の事なんか言うなよ」
「ワレが振ったネタじゃろおが!」
「そうだった。キレるかな」
 二人でそーっと振り向いてタカミツを見る。
 さっきよりもどんよりとした気配。
 小さな椅子に座って、肩が小刻みに震えて見えるのは気のせいか?いや、もうそろそろ限界なんじゃろう。
「もー飽きたばーい!」
 何!?
 メグルの声に振り向けば、手に持った竿を放り投げるところ。
 タカミツを見れば、先に叫ばれたせいで気がそがれたのか、拍子抜けした表情と肩の線で、呆けた顔でメグルを見ている。
 ある意味いいタイミングじゃ!メグル!
「こげん雪があるのにスキーもせんで座ってるのは性に合わなかー!」
 プリプリと不機嫌を顕わに立ち上がって、くるりと振り向く。
「兵悟君!」
「な、何?メグル君」
 スキーに行けなくなった元凶の張本人は、びくりと椅子から飛び上がらんばかりに驚いて、おどおどと振り返る。
 そのタイミングを見計らっていたんじゃろお。
「ったー!!!」
「大当たりばーい!」
 いつの間にかつくっていた雪球が、兵悟の顔にジャストミートしていた。
「メグル君!酷い!」
「酷かなかよ〜ちゃんと顔に当たって崩れる程度に握っとろうもん」
「もー怒った!」
 元々血気早い兵悟は、メグルの煽りに乗せられて、椅子から氷上に移動し、せっせと雪球を作り始める。
 メグルはもう随分前から飽きとったんじゃろう、前もって作ってあった雪球を兵悟目掛けてどんどん投げとる。
「兵悟君、反撃が遅かよ〜」
「ずるいんだよメグル君は!もういっぱい作って持ってるじゃないか!」
「時間は上手く使うんが、賢い人間のやり方ばい!」
 公魚釣りよりよほど楽しいのか、二人はぎゃあぎゃあ文句を言い合いながらも、笑って雪球の投げあいをしとる。
「子供だなぁ…でも楽しそうだけど」
 星野が、全く仕方ない二人だ。と柔和に笑う。
 じっとしているよりは、そっちのほうが楽しそうだ。
「ワシも行くけぇ、モトは?」
「え?俺一人で釣りしてろって言うの?」
 そう言う星野の手元には、いつの間にか数個の雪球。
「…上等!」
「じゃ、どっちに味方する?」
 兵悟が劣勢だけどね。と星野は言うけれど。
「ワシらと二人とで対戦するんでええじゃろ」
「のった!」
「じゃ、せーの!」
 ワシと星野は、揃って二人目掛けて雪球を投げた。
 こっちのほうが性に合うんじゃ!




2月某日 記録者 神林兵悟。
H湖湖上、雪合戦中。


「兵悟君馬鹿か?報告用なんやら同上って書いておけばよかばい」
「嘘書いたら報告の意味無いだろ!」
「まじめね兵悟君は」
 雪合戦、俺とメグル君、星野君と大羽君のチームで戦っていたけれど。
「誘わないのも寂しかね」
 ぽつりと呟いて、星野君と大羽君相手に、停止のサインを送る。
 そして、それにあわせて片方の手の人差し指を唇の前に一本もっていって『しー』もう片方の手で俺を含めて皆を手まねき…って?何?
「無駄口は叩かんと黙って」
 それぞれ近寄ってきた俺たちの前でそれだけ言うと、雪球をもって投げるジェスチャー。
 タカミツ君に。…ってえぇ!?
「波状攻撃かけるとよ」
 タカミツ君、そう言えば俺らを無視して一人で釣りに没頭している。
 …没頭しているように見せてる?
「そげん態度は面白くなかろう?皆一緒に来とぅとに。仲間はすれも可哀想やけん♪」
「って、釣りが本当なんじゃ…」
 タカミツ君が可哀想だとかそうじゃないとか、全く関係なく。な表情してない?メグル君。
 単純に、悪巧みの表情に見えるの俺だけ?
 同意を得ようと星野君と大羽君を見れば、
「ええの!面白そうじゃけぇ」
「俺らは釣れてるしね。遊びに来たんだし」
 えええ!ってあっさりー!?二人って意外と…
「民主主義ばい♪」
 少数意見は淘汰されてるよ!
「じゃ兵悟君前に立って」
 へ?
 ずいずい、と三人の前に立たされる。
 え?なんで?
「メグル君何…」
 何で俺が立つのってそう聞こうと思った時、メグル君が見事なオーバースローで雪球を投げた。
 タカミツ君の後頭部に。
 思わすそのオーバースローが放物線を描く様を眺めて。
 パシッと小気味良い音を立てて頭に当たって割れたのを確認して。
 そのまま雪が零れて落ちる様から目を逸らさずにいれば、怒りに震えながら振り向くタカミツ君と目が合う。
「神林…兵悟!貴様ぁ!」
「お、俺じゃないよ!」
 怒って顔を真っ赤にしたタカミツ君が湯気を出さんばかりの勢いで立ち上がり、俺に向かってこようとした時。
 パシパシパシ!と雪球が三つタカミツ君の顔にヒット!
「お、お前らぁぁぁ!!」
「大当たり!」
「よし!」
 茹でた蛸が乗ってるみたいなタカミツ君の顔に、皆次々に投げる。
 追いかけてこようとするタカミツ君から脱兎で逃げると、皆も同じように逃げながら、雪球攻撃。
 タカミツ君はタカミツ君で三人の中心で新たに投げた人に向かって追いかけようとするから距離が縮まらない。
「お前ら、卑怯だぞ!」
「どうせなら皆で遊んだほうが楽しかろうもん。どう面白かね?」
「面白い訳あるかぁ!」
 でもそう言いながら、タカミツ君も楽しそうに見えなくも無いよなぁ。
「兵悟はどうするの?」
 いつもの笑みを湛えたまま、手つきだけは鋭く雪球を投げている星野君が俺にそう言う。
 ええっと…じゃあ。
「俺も…」
「神林ぃ〜…!!」
 タカミツ君の絶叫が湖面一帯に轟く。
 これで雪崩とか起きたらごめんなさい。




2月某日 記録者 星野基。
H湖湖畔、釣り終了。


「いや、疲れた様子だね?つれた?」
 釣具屋のご主人にそう言われて、皆でちょっとだけ引きつった笑いを返す。
 釣果。メグル三匹、俺とヒロで二匹ずつ、計七匹。
 すっかり雪合戦に時間を費やして。
 気がつけば借りた道具を返す時間に。
「釣れない時は釣れないんだよ」
 道具をチェックしながらそう言われる言葉がちょっとだけ痛い。
「どうする?釣れた公魚食べていくかい?」
 釣れた公魚…食べでが無い位しか釣れてないけど。
 皆を振り返ると、一様に似たような表情。
 特にタカミツと兵悟は釣れなかった訳だし。
 思案にくれるといった大仰な状態までとはいかないけれど。
 でも、なぁ。
「あぁ、大丈夫大丈夫。うち、つれなかったお客さん用にストックがあるからね、お腹いっぱい食べられるよ」
 別料金になるけどねーとご主人は笑うけど。
 お腹…いっぱい!?
 それは、無理だろう?皆底なしに食べるんだけど…
「オイは食べるとよ。昼も食べなかでおったからもう腹ぺこ〜」
「星野君俺も…」
「ワシも、腹減った…」
「俺も!」
 確かに俺だって、お腹空いてる…
「お願いします…」
「はい、塩焼きとから揚げと天麩羅と、新鮮だからね、どうする?」
「じゃ、とりあえず適当に三十人前ぐらい…」
「三十!?」
「多分それじゃ足りなかよ星野君」
「星野、五十人分は軽い」
「とりあえず早く食べたい…」
 いつの間にか店の端にある喫食コーナーに陣取ってる四人。
 ったく…でも。
「じゃあ五十人分で」
 オーダーにただ頷いて、厨房がある奥に下がっていくご主人、足りるかな…と呟く声が俺にだけ聞こえた。


********


「で?」
 ゲラゲラ笑いながら読んでいた報告書をぽんとテーブルに投げた軍曹が、そう言いながら俺達を上目使いで見上げる。
「公魚食べて、また行きと同じように車に乗って帰ってきまして、そのまま官舎で各自解散しました」
 疲れて疲れて、もう指一本動かすのもだるいって言うのに、車の中で皆撃沈して、運転したのは俺一人というオプションつき。
 もちろんヒロなんかは真っ先に落ちて、なんか。
「ほーか、で?」
 まだ何かあるのか?と皆で顔を見合わせる。
 軍曹ははーと溜息を吐くと、ずい、と手を出した。
「土産、公魚」
「!…」
「無いんか」
「それが…」
 結局店のストックを全部食べ尽くしたとは、言えない。
 途中で気がついても後の祭り、とりあえず、お土産は買ったのだけれど。
「忘れました」
「ドアホ!『H湖に行って来ました』何ぞ貰っても嬉し無いわ!しかもこのシリーズ表書きが変わってるだけで何処でも一緒やろが!」
 テーブルには報告書と、箱に入ったお菓子『H湖に行って来ました』が仲良く並んでる。
「しかも報告書は最悪やし。お前ら、罰として腕立て300回!」
「「「「「エー!」」」」」
「エー言うた奴は+100回や。もたもたしとるとどんどん増えるで!返事は!?」
「「「「「はい!」」」」」
 これ以上増やされたら、とてもじゃないけど。
「雪の上って、変な筋肉使うんじゃのお…」
「き、きつか…昨日の雪合戦の筋肉痛が…」
 官舎に戻って一晩寝て、起きて驚いた。変に筋肉痛になってる全身に。
 それでも気力振り絞って降りて行けば、皆一様に体の動きが硬くて、聞けばやっぱり筋肉痛。毎日鍛えてるって言うのに情けない…
「お前ら…情けないな!」
「そういうタカミツ君だって、筋肉痛になってるんだろ!?」
 普段きつい事を言わない兵悟までが、ヒステリックに声を荒げる。
「畜生…」
「痛…」
「クソ…」
 口を開けば漏れ出るは呪詛の声のみ。
 ……こいつらとは今後絶対公魚は釣りに行かない。







END
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