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『 プライベートムービー2 』
071007初出 080103









 夜明けまであと、ほんの少し。
 まどろみからゆっくりと、浮上した。




 いつの間にか寝てしまったらしい。
 確か自分は星野の部屋に来ていた筈だ。そう思い出して、未明ではあるけれど、まだ闇に包まれた空気の中、目を凝らす。
 いつの間にか蒲団を敷かれていて、その中に寝かせられていた。清潔なシーツの匂いと柔らかな温かさの中で、自分を恥じる。
 決して邪魔にならないつもりでいたから。
 星野は今大事な試験を間近に控えている。救命士の国家試験だ。
 試験も近くになって、勉強の邪魔を出来るだけしないように、星野の部屋に行くのを避けていたけれど、昨日、酷く情けない声で電話がかかってきた。
 勉強が大変なのか?と問えば、勉強より何より、恋人の存在の方が足りないと捲くし立てられて。呆れたけれども、励みになるからと懇願されて、まぁ、明日は非番だ、と部屋に行った。
 何もしなくてもいい、と言い、何も出来ないし、させられないけれど、ただ同じ部屋にいて欲しい、とそう言われて、机に向かう星野の背中を眺めるように居れば、不思議と自分も心が解れるような気持ちになり、星野の作り出していた、部屋に入ってすぐに感じたギスギスとした空気も緩和されて。
 それに、なんだか面映いような気持ちで居たのに。
 星野がどうしても側にいて欲しいと言うから、部屋に来ていたのに。
 何たる様だ。先に眠りについて、試験勉強で忙しい家主を動かして、蒲団にまで入れてもらって。
 情けなさに顔を顰めれば、眠りも遠ざかり、所在がなくなってくる。
 そして、いつもと違うことに、今更ながらに気がついた。
 一緒の蒲団に星野が居ない。見れば、隣に蒲団が敷いてあって、そこで星野が、眠っている。
 星野という人物がどんななのかを、自分は、他の輩よりは多分、いや今抜きん出て一番に理解をしている。触れたいだろう気持ちがきっと、いや如実にある。それを、我慢して、距離を置いて。試験前だという事実に少しだけ寂しくなりながら、星野が眠るその様子を眺めた。


「…なんて顔をしとるんじゃ…」


 眉間に深い、皺。疲れているんだろう、自分よりはやや丸い筈の頬の肉は削げて、大変さを物語っている。が、少しだけ、そんな星野が男としての艶熟さを増している様にも見えて、不謹慎に何を考えとるんじゃ。と、そう、思うのだけれど。
 見惚れる。
 普段はもの柔らかく人当たりがいい、と良く言われるその表情が、精度を増している。研ぎ澄まされている。
 あぁ、大概じゃ。そう思いながらも、それでもやっぱり星野の表情は苦悶以外の何物でもない。眉間に刻んだ皺が切なくて、目が覚めてしまうかもしれない、とそう思いながらも。
 手を伸ばして、眉間に触れた。


「!」


 触れた指先が、眉間の筋肉の硬い強張りを感じたと思えば、それは、溶けて消えて行く。
 そして、ゆっくりと、硬く強張っていた表情は、解けて行く。穏やかに、安らかに。
 自分の、好きな星野の表情。ほんのりと持ち上がる口角の端は、人柄を表すように柔らかく微笑む形に。



 映像として、残してしまいたい。



 こみあげる感情を、抑える。衝動のままに動き出しそうな体を止める。けれど、止めたくない。
 静かに、静かにゆっくりと。そろそろと、指先にまで神経を張り巡らせ、細やかな性格の星野が枕元に置いていてくれた携帯を、そっと掴む。



 今、この瞬間の星野は、自分だけのもの。



 背中をぞくりと駆け上がっていく、それは感情が呼ぶ快楽。その衝動のままに携帯を開き、そして。
 ムービーのボタンを押そうとして。
 その手を止め、やがてゆっくりとした動きで、携帯を閉じる。
 残したとて、それは過去。
 今一瞬の星野を、機械の、小さな画面の中に閉じ込めてしまうより。誰かに見られてしまう恐れを孕むより。
 自分の記憶の中に、鮮明に。
 今この瞬間は、誰にも邪魔されない。一瞬で永遠の、星野。
 体中の感覚で録画する、プライベートムービー。




********




「わっ!」
「…何じゃ?モト。けったいな声出しながら起きよって」
「ヒロ…あー…けっこう寝ちゃったなぁって、…あ、いい匂い」
「飯作ったけぇの、食え。食って、頑張れ」
「ホント!?わー嬉しい!」


 寝足りないのか、どうしても下がってくる瞼をパチパチと瞬きさせて、情けないような笑顔を見せる星野に、机出せ。と言って、目玉焼きの乗った皿を両手に部屋に入る。
 いそいそと折りたたみテーブルを用意する星野の為に、トーストと、簡単なスープとを運んで、テーブルを挟んで向い合う。


「もう少しじゃけぇの」
「うん」
「頑張れ」
「うん〜」


 まだ寝ぼけているんか、語尾が緩いの。左側頭部の髪が跳ねたままで、目玉焼きを乗せたトーストに齧り付く星野を見ながら、熱いスープを啜る。
 この、瞬間も。


「まだ、食うか?」
「トースト?うん」


 色んな表情の、星野を、網膜に焼き付ける。
 独り占め、する。


「星野」
「うん」
「好きじゃ」


 驚いて噎せる顔。急いでスープを飲んで、その熱さに顰める顔。慌てた様を照れる表情。そして、嬉しそうに笑う、顔。
 あぁ、誰にも渡せんの。
 ワシがこがぁに思っとるのを、モト、お前は知らん。


















END
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