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『 ちゅー 』
060624








 星野君は、自分から動いてこない。
 しかもオイに対して、間を置いているようにしか感じない。
 通常は。
 何にでも良く気がついて、
『飲む?』
 咽喉が乾いたと思えばその時の気分をまるで読んでいるかのような飲み物が供されるし(しかもちゃんと、好みの甘さになっている)、
『テレビでも見よっか』
 テレビが見たいなと思えばいつの間にかリモコンを片手に持っているし、
『お風呂沸いてるよ』
 そろそろ一日の疲れを洗い流したいと思えば、風呂まで沸かしているくせに。
『星野君』
『何』
『オイの事好いとう?』
『…そうだね。好きだよ』
 好きかどうかは、聞かなければ言ってこない。
 しかも。
『…そうだね。って何ね』
『えっとじゃあ好きです』
『じゃあって何で投げやりなん!』
『好きな事には変わり無いけど?』
 聞かれればしれっと、さらっと、照れも無く言う。そのくせ、言わん。普段言わないってどう言う事さね!と、思わず激昂したくなるほどに。
 オイばっかり。オイばっかり好いとると?
 心の中で思うけれど、絶対に口にせん。
 きっとオイが好いとう。なんて言ったら、表情変えんと思うけど、絶対星野君を喜ばせる。
 断言してよかよ。あのムッツリは好かれとる事に胡座ばかいとるとね。
 けど。
 好いとる。言葉か行動が欲しい。
 なのに、星野君からは絶対に来ない。痺れ切らしてあからさまに誘わなければ、肌を交わす事だってしようとしない。
 現に今日だって。
「メグル、メグルってば、起きてよ。いつまでも布団にだらだら寝てないで」
 台所に立ってるだろう少し遠い位置から星野君に声をかけられて、オイはより深く布団の中に潜り込む。
「ちょっと、聞こえてるから動いたんだろ?目が覚めてるなら起きてって!」
 こっちを見ていたらしい発言に追い討ちをかけられて、さらに布団の中に埋もれて、引き剥がされないように、ぎゅっと掛け布団を掴む。
 ちゃんと服を着込んでいてそうしているから、布団の中でそうするのは暑い。けど意地がある。
 服を着込んでいる、つまり、昨日も同じ布団で眠るだけしかしていないから。
 据え膳も食わん、弱虫。と心の中で罵るも、単に自分が焦らされていると感じる率のほうが高くて、ただの負け犬の遠吠えに近いのも腹立たしい。
 同じ布団に入って(星野君の部屋には客用布団があるにもかかわらず、だ)、電気を消して、背中合わせで横になって。
 早う襲わんね!と思っている間に、背中の向こうから寝息が聞こえて、一気に脱力した。
 なんね!なんね!その扱い!酷か!
 胸の中だけでそう言って、脳内だけで地団太を踏んで。
 何かしら仕返しを、と思いつつ、昨日の夜のうちにひとつ、考える。
「…いー度胸。喧嘩売ってる?」
 星野君が畳を踏んで近付いてくるのと同じくして、声も近付く。
「ほら、起きてよ。休み潰したくないんだけど?」
 そう言って、肩の辺りに手がかけられて揺らされる。
「メーグール!」
 ちょっと尖ったような声をかけられて、オイはゆっくりと、顔だけ出るような形で布団を捲ると、星野君に向かったこう言った。
「ちゅーしてくれたら、起きるばい」








「…は?」
 メグルの言葉に、問い返した。
 ちゅーしてくれたら起きるばい。って、何?
 いや分かるけど、何その行動の要望って。
 まじまじと見返すと、布団から出されたメグルの髪はボサボサで、暑いのに頑張って潜っていたみたいで頬は赤く染まっている。
 問い返しに何の言葉も返ってこないから、そのままメグルの顔を見つづける。
 …直に、だな。
 そう考えた矢先、メグルは案の定直に痺れを切らして、癇性に声を上げた。
「聞こえんかったの!?」
「聞こえたけど」
 聞こえたけど。するかなしないかな。
 うーん、ちゅーしてくれたら。か。
 目を伏せ、少し視線を斜に構えて考え込む。長考のふりで。
 そうすれば直接メグルを見てないけど、だんだんとイライラしてる様が手にとるように分かって、少しだけ…楽しくなる。
 悪趣味にもそんな風に考えてしまって、思わずメグルに視線を戻しながら自分に対してくすりと笑うと、メグルはなんだか分からないなりに口惜しそうな顔をして唇を尖らせる。
「ちゅー、ね」
 俺はそう口に出すと、横になったメグルの布団に接してる側の頬に手をかける。反対の手は耳元近くの顎に沿って触れて、固定する。
 メグルの瞳が緊張したように一瞬だけ見開かれて、その後戸惑ったように黒目部分が動いて。
 今度は笑みを上手に隠して、心持ち目を伏せて。
 上体を屈めて、ゆっくりと顔を近づけていく。
 メグルはきょときょとと落ち着かなく動く目を、後10cmという所になって俺の唇に固定させてから、ゆっくりと目を閉じた。
 ちゅーね。はい、ちゅーと。
「!い、いったー!」
 メグルがびくんと動いた瞬間に、パッと瞬時に顔を離し、畳の上を滑るように移動して、メグルとの距離を置く。
 メグルは叫び声と共に勢い良く起き上がると、
「な、何で噛むと!」
 頬を抑えながら、涙目で睨みつけた。
 あーあぁ、黒目がちの目が涙に潤んでるのが、可愛いと思えてしまう。
「だって、ちゅーしろって言ったじゃん」
「何でちゅーが、頬っぺた噛む事になると!」
 メグルはそう言って、頬を抑えて眉を寄せる。
 相当痛かったのかな、まぁ確かに、噛んで、噛んだけど。言葉の意味の通り、ね。
「ちゅーって、噛むって事だし」
「な!」
「だから、ちゅーしてって言われたから、何処噛もうかな。って考えて、頬っぺた噛んでみました」
 間違ってはいない。チューインガムは綴りでchewing gum。よくサプリメントとかであるチュアブルはchewable。どっちも噛んで食べる、そして。何度も噛むものだから。
「で、まあとりあえず二回噛んでみたけど」
「か、噛むはbiteやろ!」
「ぶー。ちゃんと調べてみてよ。綴りはc・h・e・w。で、ちゅー」
 英語はトッキュー必須だよ?と、そう言いながら噛み付いた部分を隠す手の甲を指で突く。
 そうされたメグルが子供の様に唇を尖らせたのを見計らって。
「…これはsmack。かな」
 濡れた音を立てて、ほんの一瞬のキスを唇に落とせば、今度は呆気にとられた表情で、メグルが俺を見ているから、こっちはこっちで笑顔になる。
 メグルは俺の笑みをまともに見て、そして、見る見るうちに赤く染まった。
「あはは。メグル真っ赤」
 ヘラヘラと笑いながらそう言うと、メグルは赤い顔のまま何か言いかけて、そして、息を吐き出して。
「smackぐらい知っとるとね…」
「拗ねてる?」
「拗ねとらんと!」
 メグルは目を合わせないで、枕元の眼鏡をとって顔を隠すようにかける。
 そこまで見つづけて追い詰めるのをしても仕方ないしね、俺はメグルが寝ていた布団に手をかけた。
 結局の所、キスしちゃったなぁ。と思いながら布団を畳んでいると、メグルも黙って敷き布団を畳む。素直にキスをしなかったからか、少し拗ねたままのメグルが布団を畳むのを待って、その上に掛け布団を乗せる。
「押入れにしまってね。俺朝ご飯作るからさ」
「…何ね、朝ご飯」
「メグルが好きなオレンジのフレンチトースト。もう用意して、焼くだけだからすぐだけど?」
 言われて一瞬にしてメグルが破顔一笑するのに、ぷっと吹き出す。
「〜〜〜〜…!星野君は!」
「はいはい」
「はいはいっぺんでよか!」
 八つ当たりするように声を荒げるメグルを軽くかわして台所に戻ると、用意しておいた卵液のボウルを手にする。
 メグルは痛みに囚われてたけど、噛むのって愛情表現手段の一種でもあるんだよね。
 嫌いな奴進んで噛みたいとか思わないじゃん。止むに止まれず噛まなきゃならない状況ならともかくとして。
 噛んでもいいとか、思えるから噛んだんだけどな。
 …まあ、気付いてないならそれでいいけど。
 メグルが布団を押入れに入れて、折りたたみのテーブルを用意するのを背中に感じながら、フライパンにバターを落とした。



















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