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『 まだ恋ははじまらない 』
050411









 潜水同期の一人の結婚式に呼ばれたのは、トッキュー行きの前だった。
 同期の中では比較的早い結婚に、是非チャペルにも参加してくれないかと言われて、同期全員が二つ返事で了承して。
 晴れの門出を祝った。
「星野、お前トッキュー行き決まったんだって?」
「あぁ、うん」
「あぁうんってお前、なんかさばさばしてんなぁ。もっと天狗になるとかしろよ」
「そんな事言ったって、星野の性格が変わる訳無いだろう。こいつは元々こういう奴なんだって」
「これでも驚いてるし、凄くドキドキしてるんだけどなぁ」
「落ち着き払っているように見える」
「そうとしか見れねぇよ」
 チャペルでの式が終わって、新婦のブーケトスの為にチャペルを出る道すがら、同期達に小突かれながら移動する。
 結婚の主賓もさることながら、やっぱり潜水士なら誰もが憧れるトッキュー行き。主賓と話せない以上、自然と話の流れは最新のニュースの種の俺になってしまっている。
 ここでする話題でも無いよなぁ…ま、披露宴で奴とは沢山話ができるだろうし、と、誓いのキスだけでデレデレになっている新郎の顔を思い浮かべた。
「しかし、星野はトッキュー行きより結婚のほうが早いと思ってたぜ」
「そうそう、こいつずっと付き合ってる子いただろ?名前なんて言った…」
「ちょっ…」
 潜水士としては同期だけれど、所属が離れている仲間がそう口に出すのに、同じおずに配属された一人が、慌てたようにそいつらの言葉を遮る。
「なんだよ」
「だって…」
 言いよどみながら俺を見るそいつに、気に病まないように出来るだけ明るい笑顔で返した。
「今ちょっとヤバイ…多分別れると思う」
「別れる?けっこう長くなかったか?」
「研修受けてた頃の子とはとっくの昔に別れてたよ」
「じゃ、新しい彼女と?」
「うん」
 トッキューに配属が決まって、その話をした辺りから、どうもギクシャクして。と言うより、トッキュー行きに気持ちが行くようになって、その子との時間がさほど大事じゃないように思えたのも、少なからずもあったかもしれない。
 好きだという気持ちが継続しなくなってしまって。
 元々向こうから好きと言われて付き合いだして、不規則な生活だからなかなか会えない状態だし、積極的に会おうとも努力はしてみたんだけれど。
 少ない休日やりくりして会っても、すぐに楽しい気持ちは無くなって。
 折角の休日に休みたいなと思っていても、どこかしら連れ出される。そんな彼女の思うように行動する事に疲れもあった。
 トッキュー行きの事を告げれば、祝う前に会う時間がもっと少なくなるんじゃないかって事を危惧されるだけで。
 おめでとうの一言は、後から付け足されるようにあっただけで。
 それをきっかけに、なんだか諍いの電話とかも頻繁に入る事で、同じおず勤務の同期には知られる所になってしまっていた。
 仕事中にもかかわらず入る電話やメール。電源を切っておけば、次に電源を入れたときには…思い出したくも無い。
「…女運悪いのかも」
「星野…テメふざけろよ」
「途切れる事無く女がいるのの何処が女運が悪いって?」
「どの口が言うんだ!この口か!」
「畜生!万年女日照の俺らに言うか?」
「わ〜やめろって!そろそろ新郎新婦出てくるだろ〜!」
 ぽつりと呟けば、同期連中からの思わぬ攻撃を喰らう。
 でも。
 長続きしなかったり、一方的に相手のいいように動かされたり、好意が発生しないで惰性で付き合うのは、女運がいいとは言い切れない。
 肌を触れ合わせる事があったとしてもそれは、虚しさだけなら一人でする性処理と何ら変わらない事に気付いてしまったんだ。
 チャペルを出る前に受け取った、フラワーシャワー用の花弁をつい無意識に握り締めてしまっていて慌てて手の平をゆるく握る。
 潰れたものをかけるわけにはいかない。そっと手の平を開いてみて、確認。とりあえず潰れてはいないが、花弁は手の中でだいぶ疲れてしまって、悪いな。と言う気持ちになった。
「星野、扉開いたぞ」
「あ、うん」
 扉が開いて、チャペルに備え付けられた鐘の音が響く中、新郎と新婦が連れ立って出てくる。
 幸せそうな笑顔に向けて、新婦にはふわりと、新郎には叩きつけるように花弁を投げると、相好を崩した新婦がいてっと言いながら、それでも幸せいっぱいの笑顔をこちらに向けた。
「おめでとう」
 手をメガホンの形にして祝いの言葉を投げかける。
「滝口の嫁さん、綺麗な嫁さんだな」
「幼馴染だってよ」
「そーいう子の一人もいねぇよ、俺は」
「外にも職場にも出会い無さ過ぎだしなぁ…」
「そうだね〜…」
「お前は賛同すんなよ星野」
「そーだそーだ」
「新婦の友人でも、お友達になれないかな〜…」
 ブーケトスの為に新婦の友人が並びやすいように、男連中や親戚はなるべく外に避ける。
 そこに並ぶ着飾った女の子たちの群れの背中を眺めて、そして、新郎と新婦に視線を向ける。
 いつか、誰かとあんな風に。
 俺にもあるのかな。
 新婦にブーケトス用のブーケが手渡される。
 小ぶりのブーケを三つ束ねて、新婦が投げるよーと、楽しそうにブーケを左右に振る様をぼんやりと見る。
 新郎新婦が揃ってカウントをとるのをぼんやりと聞き、最後の0。で、ブーケが宙を舞う。
 その軌跡の一つを眺めて。
「え!?」
 思わず受け取ってしまった。
「星野?」
「何で!?」
 三つのうちの一つ、が。
 俺の手元まで飛んできた。
 困ったような表情を浮かべると、思いもかけないハプニングで会場に笑いが伝播する。
 新郎新婦を見れば、照れ臭そうに笑う新婦と、面白がって爆笑する新郎が見える。
 …って。
「どうすればいいんだよ…」
「知るかよ、俺貰った事無いし」
「しかし滝口の嫁さん、肩強いなぁ」
「なんかソフトボールの選手だったらしいぞ」
「それでかよ」
「誰かに渡すって言うのも、あれかなぁ」
「駄目だろう?」
 スーツにブーケをもっているのはなかなかシュールな光景なのか、周りを見ればクスクスと笑う人々の和やかな笑顔。
 誰かに渡す、という状況でない。
 そんな事して、この空気を壊すのは躊躇われる。
「仕方ないな…」
 苦笑しながら、新郎新婦に向かってブーケを持った手を揺らす。
 失敗しちゃったと言う表情を浮かべていた新婦も笑顔になった。
「持ち帰るよ」
「そうしとけそうしとけ」
「ブーケ貰ったって事は、次に結婚するの星野かよ!」
「それって女の子のジンクスだろ?」
「星野嫁に行くのか〜」
「誰がだよ。別れそうだっていうのに」
「じゃ次か?次の女か?」
「お前だけが何でもてるんだよ!」
 ブーケを持つ俺を、痛いぐらいの勢いで皆が小突く。
「痛い痛い…」
 次?
 なら。
 本当に好きな相手が、見つかればいい。
 思いもかけず手の中に飛んできた、ブーケみたいに。
「ま、そんな事無いだろうけどね」
「なに言ってんだ?星野」
「お前今日新婦側の誰とも仲良くなんじゃねぇぞ」
「ヒド!」
「少しは俺らに回せ!」
 口々にそんな事を言い合いながら、披露宴会場に向かう。


 その時はまだ、恋ははじまっていなかった。







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